【第8回短編小説の集い】緑色の瞳
はじめまして。葉月一生(はづき いっせい)といいます。
今回初めて短編小説の集いに参加させていただきます。
小説初心者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
緑色の瞳
季節は初夏。キャンベル家の屋敷の庭には緑があふれている。
キャンベル家の屋敷は典型的な中世ヨーロッパの雰囲気を醸し出す貴族の屋敷だ。
そんなキャンベル家の屋敷の庭を、先ほどからひとりの男が誰かをさがしてうろうろしている。
男は軍服を着て、腰にはサーベルを携えている。前髪はぴっちりと七三に分け、しっかりとした人物であるようにうかがわせる。歳は20歳くらいだろうか。ここの屋敷の騎士だ。
男がわさわさと垣根をかき分けると、そこに一人の少女がいた。
「アンジェラお嬢様、こんなところにいらしたのですか」
「あらニコラス。見つかってしまったわ」
美しい金髪の16歳の少女は少しがっかりとした様子だ。
「お嬢様、私も侍女もつけずにおひとりでうろうろされては困ります。私は貴女様をお守りする身なのですから。何かあっては・・・」
「ニコラスったら。お屋敷の中なんだから安全じゃない。たまには私も一人になりたいのよ」
「ですがお嬢様――」
「ニコラス、私ね、今、四葉のクローバーを探しているの」
アンジェラがニコラスの言葉をさえぎるように言った。
「四葉のクローバー、ですか」
「四葉のクローバーを見つけるとね、願い事が叶うんですって」
「ニコラス、一緒にさがしてくれる?」
「もちろんです。お嬢様」
ニコラスはアンジェラの近くにしゃがみ込み、四葉のクローバーを探し始めた。
「・・・お嬢様の願い事は何か、お伺いしてもよろしいでしょうか」
ニコラスはアンジェラの緑色の瞳を覗き込んだ。
なんてきれいな瞳なんだろう――まるでエメラルドの宝石のようだ――
「ふふ、いいわよ」
「私ね、自由になりたいの。今の贅沢な暮らしが嫌なわけじゃないのだけど、いつもお付きの人がいて、なんだか息が詰まっちゃうし、自由にお出かけも恋愛もできないもの」
ふう、とアンジェラは大きなため息をつく。
「あ、ごめんなさいニコラス。あなたのことが嫌なわけじゃないの。ええと・・・」
「いいんです、お嬢様。お嬢様の気持ちはよくわかります」
「あ、見てくださいお嬢様!四葉のクローバーですよ!」
「わ!本当!これで私の願いが叶うかしら・・・」
せっかく四葉のクローバーが見つかったというのに、アンジェラは少し悲しそうな顔をした。わかっているのだ。四葉のクローバーを見つけたからといって、自分の願いが叶うわけではないということを。
そのことをニコラスは察していた。
「お嬢様の願い、私が叶えてみせましょう」
ニコラスは立ち上がり、アンジェラの手を引いた。
「え・・・だめよニコラス!あなたお父様に叱られちゃうわ」
「私のことならご心配なさらないでください。何とかしますから」
「でも・・・!!」
心配するアンジェラをよそに、ニコラスはどんどん歩いていく。馬小屋へたどり着くと、愛馬である白馬を連れだした。
「さあお嬢様、お乗りください」
ニコラスはアンジェラを馬に乗せ、自身も後から馬にまたがった。
「わあ・・・」
さっきまでニコラスを心配していたアンジェラだったが、いつもより高い視点から見える景色にすっかり興奮してしまった。
「お嬢様はどこへ行きたいのですか?」
「そういえば考えてなかったわ・・・とりあえずこのまま馬を走らせて!」
「かしこまりました」
ニコラスは馬を走らせた。
小一時間ほど馬を走らせると、岬へたどり着いた。
二人は馬から降りた。
「わあ・・・すてきな眺めね・・・」
アンジェラは目の前に広がる大きな海を見て言った。
「ええ、とても」
ニコラスは海を眺めるアンジェラの横顔を見つめている。
緑色の瞳がキラキラと輝いている。
本当に、お嬢様は素敵な方でございます――と思わず言ってしまいそうになる。
本当に、お嬢様は美しく素敵な方だ。
「ニコラス、私の願いを叶えてくれてありがとう。今日は本当に楽しかったわ」
「いえいえ。喜んでいただけて光栄でございます」
ニコラスは礼儀正しくお辞儀をした。
「お嬢様、私はいつまでも、貴女にお仕えいたします」
おわり