【第9回短編小説の集い】Over the Rain
こんにちは、葉月です。
前回、初参加だったのですが、スターや感想をいただき、ありがとうございました。
今回は超短編です…
Over the Rain
ああ、また雨か―――
冒険者カイトは宿屋の部屋のベッドから窓の外を見た。
冒険者カイト一行は、小さな町の宿屋に泊っていた。
雨の日には、あの日のことを思い出す。
あの日も、雨だった。
一年前のことだ。
世界征服をもくろむ闇の帝王を倒すべく選ばれし勇者たち――カイト一行――大剣で敵を切り裂く剣士・カイト、岩をも砕く大きな斧で敵をなぎ倒すウォーリアー・キール、後方から仲間を援護するアーチャー・ナギ、魔の力で攻撃や回復を行う魔術師・リリィ、そして美しい金髪をなびかせ、舞によって倒した敵の魂を鎮める踊り子・クラリス――は、雨の中、禍々しい空気が漂う山を登っていた。
山の頂上では、全長20メートルはあろう巨大なドラゴンが待ち構えていた。
ドラゴンは翼をはためかせ、口から炎を吐いてカイト一行に襲い掛かる。
アーチャー・ナギがすかさず二本の矢を放ってドラゴンの目をつぶし、魔術師・リリィが雷魔法でドラゴンを麻痺させ動きを鈍らせる。その隙にウォーリアー・キールが翼を切り落とし、そして剣士・カイトが大剣で脳天を貫く。
ドラゴンが金切声をあげて倒れ込む。
最後に踊り子・クラリスがドラゴンの魂を鎮める――
見事、勝利したかのように思われた。
ところが、強力な闇に染まっていたドラゴンの魂は舞によって鎮められず、クラリスを呪い殺した。
一瞬の出来事だった。クラリスは即死だった。魔術師・リリィの回復魔法では生き返らすことはできなかった。
クラリス―――――――――――――――――――――――――――――――――!!!
涙が、降りしきる雨のように流れた。
カイトはあの日の出来事を思い出しながら、首にかけている、かつてクラリスが身に付けていたネックレスを握りしめた。
クラリス、闇の帝王は必ず倒してみせるよ――――
雨はあがった。
おわり